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83年前の『13歳のハローワーク』
『世の中への道』と題された古本を入手(1929.9.30,文藝春秋社,242頁)。
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(画像は扉。)
「小学生全集」というシリーズの1冊(第84巻)。その「はしがき(父兄の方々へ)」を以下に引用する。

 皆さん――
 私共は就職難、生活難の声を毎日のやうに耳にいたします。それは現在活動しつゝある人々にとつては、別になんでもないかも知れません。しかし、それは恐ろしい一つの社会問題であると存じます。かうしたことがらは今後世が進んで参りまして社会が複雑になるにつれて一層ひどくなつて行くのではないかと思はれます。そしてそれを、現在小学校に行つていらつしやる愛読者諸君も遅かれ早かれ考へられるやうになると思ひます。勿論愛読者の方々はいづれもいゝ家庭にお生れになつてゐることと信じますが、人はいつ何時どう言ふ事柄にぶつからぬとも限りません。昨日の富豪が今日は月洩る荒家に住むやうなことも、社会には多々例を見るのであります。此の「世の中への道」は「常に用意する」意味で作られました。日常、愛読者諸君が本書を読まれて、来るべき時代の世の中へ出て行かれる参考になさることは決して無意味でないばかりか、さうした不時の場合、きつと当事者は、本書を読んで置かれたことによつて特別に善処し、益されることがあると信じます。勿論不備の点も多々あることと存じますし、又就職などと言ふ問題はなかなか小学生の方々に理解させることは難事であります。就職難、生活難の声の叫ばれる時代に、本書が現はれただけでも意義があるとお思召された方々は、愛児のために難解の点について理解の行くやうお力添へくださるやうにお願ひいたします。
   昭和四年八月     小学生全集編輯部


10年近く前、村上龍が『13歳のハローワーク』(幻冬舎)を出版して話題になったけれども、すでにそれよりも70年以上以前に同様の企画出版が存在していたのである。
昭和4年(1929)といえば、世界恐慌が始まった年として知られるが、しかし、この書が刊行された9月は、まだブラック・マンデー(10月19日)以前である。世界的景気動向は、むしろこれ以後に著しく悪化することとなる。
で、本書の扉絵には、下掲のような絵が掲げられている。
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手前の学生服の少年は、納豆売りをしている。
小学校を卒業して、納豆売りとして働きつつ苦学し、将来の立身に備える――本書が提示するひとつのあり得べき姿は、そのような選択であった。
現在の中学生向けのキャリアガイダンスが、「まだ社会にでるまでに3年から7年ほどゆとりがありますが、きたるべき将来のために、世の中のことを知っておきましょう」というコンセプトであるのに比べ、はるかに切実で過酷な状況が、この時期の小学校高学年生には存在していた。(当時、義務教育の6年間を終えた後、高等小学校に2年間通う者も多かったので、本書の対象は現在の中学2年生くらいまで含まれると考えられる)。
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